ベテラン教師が教える「コツ」
日本語教師に限らず、教師にとって必須の要素はいろいろあると思いますが、私は目の前の学習者がわかっていないことがわかることが非常に重要だと思います。
とかく、新しい先生方は自分の立てた教案を進めるのに手一杯で、学習者の心や頭の中に思いを巡らすことを忘れがちです。教案ばかりに目が行って、学習者のほうを見ていないというのが、最初の段階です。学習者がついてきていないことすらわからないでしょう。
少し経験を積むと、こういう説明や練習をすればわかるはずだという思い込み(思い入れ)が出てきて、学習者を見る目にバイアスがかかってしまうことがよくあります。そうすると、“?”いっぱいの表情も、“!”に満ちた顔に見えてしまうものです。教師の独りよがりというか、独り相撲というか、学習者を見ていても見えてはいないのです。
こういう教師に対して、学習者はどういう態度を取るでしょう。わからないことを質問してくれたらありがたいです。教師が手を変えて説明なり何なりすれば、学習者の理解が深まる可能性もあります。わかっていそうな友達に聞いてどうにか穴を埋めるという手を使うこともあります。この先生に聞いてもどうせわからないだろうと思われているかもしれません。
どうすれば学習者がわかっていないことがわかるのかといえば、上述の裏返しです。何よりまず、学習者を見ることです。心に余裕を持ち、絶対わかるはずだなどという妙な過信を持たず、謙虚な姿勢でクラス全体を見渡します。そういう心の余裕を持つために何をすればいいかと言われたら、私は時計を見ることを勧めます。教室には必ず時計があります。その時計にチラッと目をやることで、一瞬教案から離れ、客観的に自分を見るのです。同時に、学習者全員の顔を見て、“?”を抱えていないか注意を払います。
時計を見ても教案の予定経過時間とのずれにしか神経が及ばないようなら、冷たいようですが、残念ながら、教壇に立つだけの実力がないということだと思います。「教える」ということを、どこかで見つめ直してから再挑戦してみてください。